FPT Softwareでの社内カンファレンス
3/1 にベトナム、ハノイにある FPT Software を訪ねました。ちょうど KDDI の佐々木さんとSDNAのあまのりょ〜さんと旅程を合わせることができたので、現地で、「日本のアジャイル」カンファレンスを開いて頂きました。この企画は、旅程を決めてから急に進展、現地のSDNA成田さんが企画と調整を引っ張って頂き、180人を超える社内カンファレンスになりました。当日は gulliverの加藤さんも参加、たいへんな盛り上がりを見せたのでした。
FPT側では、カンファレンスのための看板「Practical Agile in Japanese Corporations」(下の写真)まで準備してくれ、ちょっと注目度の高いイベントになりました。このレポートでは、そのカンファレンスの内容や様子、そして、「なぜオフショア開発が難しいか」「なぜアジャイルが日本でまだ主流にならないか」ということを文化人類学的な考察を少し交えて文章にしたいと思います。
当日は、FPTのNguyen Thanh Namさんの流暢なベトナム語と日本語を織り交ぜた司会のもと、
- CQO/CIOのDo Van Khac さんの挨拶
- 平鍋のアジャイル時代のモデリング
- 佐々木さんのテストを使った仕様伝達
- 成田さんのベトナムの文化と日本の文化、ソフトウェア開発の文化人類学
- あまのさんモデレーターによる、リモート開発でのチームづくり、テーマのパネルディスカッション
という流れで進みました。
アジャイルとモデリング
平鍋の資料です。
アジャイルが普及しても、設計という活動は開発の中心だ、というのが言いたい事。
オフショアでどう仕様を伝えるか
佐々木さんは、仕様をどうやってオフショアチームにうまく伝えるか、ということについて、その手段としてのテストに着目しています。どこまでを日本でやって、どこまでをベトナムでやるか、という分担をいろいろ試行錯誤しながら、テスターではなく(FPTにはテスターという区分があります)開発者に仕様を説明し、E2Eのテストを書いてもらい、それを日本側でレビューすることで、テストを仕様として使う、という手法に挑戦しました。まさに ATTD(Acceptance-Test-Driven-Development) なんです。ポイントは、日本側のテストレビューを、ベトナム側に仕様が伝達されたかどうかのバウチャーとして使っていることです。オフショア開発の1つの切り方として面白いと思いました。当日は社内のスクラム計画/レビューイベントにも参加して、エンジニアとスカイプを使った日本との会話も見学させてもらいました。
日-越のオフショア開発における文化的側面
成田さんは、HOFSTEDEの「文化ディメンション」から、ベトナム、日本、そして欧米の文化の特殊性をとりあげました。6つのディメンションは、
- Power Distance Index (PDI)権力格差
- Individualism versus Collectivism (IDV)個人主義
- Masculinity versus Femininity (MAS)男らしさ
- Uncertainty Avoidance Index (UAI)不確実性回避
- Long Term Orientation versus Short Term Normative Orientation (LTO) 長期指向
- Indulgence versus Restraint (IND)個人主義
です。これを国毎に比較するのですが、日本は、4(不確実性を嫌う)、5(長期指向)が強い傾向にあり、これがアジャイルの普及を文化的に妨げている、というのがぼくの解釈です。また、ベトナムは1(権力格差)が強く、ビジネスの上下関係に敏感です。これらは、アジャイルが始まった欧米諸国とは反対の傾向です。
成田さんは、「どの文化にもぴったりうまく行く開発などないのだから、自分たちの指向に合ったやり方を見つけないといけない」という主張をされていて、ぼくもとても共感しました。
この話は、「リーン開発の本質」のMary Poppendieckも強調していて、平鍋訳による解説のスライドを紹介します(24 page目くらいから)。
この中の数ページだけハイライトです。日本文化がいかに特殊かが分かる資料になっています。アジャイル宣言の「変化に対応」と「不確実性回避と長期指向」、「個人と対話」と「個人主義」を対応づけています。
パネル:ホワイトボードに勝る伝達手法なない
あまのりょ〜さんの司会で、モデルのあり方、アジャイル開発でのツールの使い方、テレビ会議のやり方、などを議論しました。ぼくは「一方がモデルを描いて渡すのではなく、不完全なものを見ながら一緒にモデルを描くことで、my model が our model になる瞬間が必要」という主張をしました。渡されたものではなく、自分も加担しないといけないのです。
“Model to have a conversation.”
-Craig Larman
もう一つ、ぼくが10年前にはじめてオフショアアジャイルをやった時の資料を発見して、その場でお見せしました。一緒に開発する時間を作る、一度も話をした事のない人にメールで議論しない、などの目的で、開発部全員で現地を訪れてペアプロをしたことを思い出します。
一日を終えて
ベトナムの若いエネルギーにふれて、楽しいながらとても疲れた一日でした。
当日は、Gulliverでシステム開発のアジャイル化とオフショア化を進めている加藤さんとも合流でき、日本でオフショア×アジャイルのセミナーを企画しよう、と盛りあがりました。パスポートをみせてもらいましたが、ベトナムのスタンプ量が半端なかった!
Dinh Thi Thanh MAI さん、一日目のお迎え、観光に付き合って頂きありがとうございました。旧市街地のコーヒー美味しかった!マイリン日越ビジネスの成功をお祈りしています。
FTP CQO+CIO の Do Van Khac さん、飲み会の席でソフトウェア品質の話、日本やアジャイルジャパンのことを話できて嬉しかったです、ホストをありがとうございました。
Bùi Minh Trườngさん、パネルではベトナム独自の視点での解説をありがとうございました。
Nguyen Thi Lan Huong さん、アジャイルがうまくいかないケース、なかなか手強いいい質問を頂きありがとうございました。
そして、Nguyen Thanh Nam さん、全体を通してのファシリテーションと雰囲気づくり、ありがとうございました。“Khong say Khong ve” はその後何度も使いましたよ。
藤田さん、小牧さん、長時間にわたる通訳と懇親会でのケアをありがとうございました。お二人のおかげでコミュニケーションがスムーズにとれました。また、ベトナムの民族感についての話はとっても参考になりました。家族をすごく大切にしていることなど。。。
Du Cong Thanh, Nguyen Tien Dung さん、それから astah のユーザー Vo Chi Congさんありがとうございました。
これは頂いたお土産。”a golden drum” ということですが、由来をご存知の方、教えてください。
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