(※ EDIT: 2/28 野中先生のスライドを加えました。写真加えました。)
Digital Innovation Leadership (~ビジネスを創造する組織戦略~)が、今週水曜(2/15)、ウェスティンホテル東京にて行われました。ぼくもパネルディスカッションのモデレータとして呼ばれてお話をしました。(後の方にぼくのパネルの資料を公開します)
Jeffのスクラムの話

スクラムは、アジャイル開発の一手法であり、現在最も人気のある手法でもあります。今回のトークは、Silos(サイロ=組織の壁)、Transparency(透明性)、Happiness(幸せ) というタイトルのでした。組織の壁を越えること、仕事の役割の数を減らすこと。仕事の中身を透明に見えるようにすること。
今回は、特に「ハピネス」の話に力が入っているように感じました。幸福度が高い営業の方がよい成績を上げることも、幸福度が高いチームがよい生産性を上げることも、統計的に有意になっています。このことは、「働き方」としての改革がスクラムには含まれていることを示しているのでしょう。新しいマネジメントの思考(マインドセット)がスクラムには必要なのです。
KDDI藤井さん

藤井さんはSun Micro, Google と渡り、西海岸でできている仕事のやり方が、なぜ日本でなぜできないのか、という疑問を解決すべく、KDDIで活動されています。そのためには、ソフトウェア開発だけでなく、商品企画もアジャイルでなければならい、という結論を得て、企画のプロセスを変えることにも取り組んでいるのだそうです。
野中郁次郎先生

今回も一番インスピレーションに富んだお話。スクラムの根底にあるのは、知識創造、がどこからやってくるのか、というモデル、SECIモデルです。イノベーションはPDCAでなく”S”(Socialization)から始まる。つまり言葉にならない暗黙知を共有する共体験の世界。人間は母との関係から、つまり二人称から始まる元来ソーシャルな存在。一人称の前に未分化な”I-You”関係がある。そこから言語を得て一人称を発見する。その後ようやく他者を客体視する事ができ、”I-It”関係を得る。Itを得て分析ができるが、決して分析が先ではない、という話です。「だから、女房を説得できない男は世界を変えることはできない」というオチまでついて、深い示唆と笑いに包まれた講演でした。(2/28 EDIT: スライドを許可を得て公開します)
パネルディスカッション

ぼくがモデレータを務めたパネルです。Scruminc のAvi、 JISA会長の横塚さん、KDDIの藤井さんに登壇いただきました。
デジタルビジネス時代が訪れ、海外企業がどんどん「小さなチームによるイノベーション」を始めています。そのチームが市場を創造しながら製品を作っていく。大企業の中でもスタートアップ的なアプローチのチームが増えているのです。そこではアジャイル開発(ビジネス開発も含めて)が行われている。日本の中でも、大企業が小さなチームの力に気づきはじめています。海外の話をAviに、日本の話を横塚さんと藤井さんに振りながら議論が進みました。
交流会
交流会はなんと、竹内先生(スクラムの名付け親のもう一人)にご挨拶いただきました。ボストンでJeff夫妻の定期的に食事をしているとのこと。日本の製造業からはじまったScrumという言葉が米国のソフトウェアで花開き、ブーメランのように日本に戻ってきた。そんな状況になるとは思ってもみなかった。というお話でした。


このイベントの意味
スクラムはJeffとKenによって形式知化され、竹内先生と野中先生の1986の論文、The New New Product Development Game がインスピレーションの大元になってその名を付けられています。ですので、Jeffはスクラムの父(father of Scrum)、竹内先生、野中先生は、スクラムの祖父(grandfather of Scrum)というわけです。その3人が集まるというのは初めてという世紀のイベントということです。2011年に川口さん、前田さんらとJeffと野中さんの初顔合わせを企画した Innovation Sprint 2011 のことを思い出します。
現在の日本、Webサービスを事業コアに持つ事業会社、スタートアップの中では標準になりつつあるアジャイルですが、既存産業の中ではまだ浸透していません。(日本でいう)ユーザ企業と(日本でいう)SI(システムイングレーター)およびその下請け構造の中ではウォーターフォール型の開発がまだまだあります。しかし、SoE領域の開発、イノベーションの領域では大企業の中でも小さなチームで新規サービス開発に臨む、ということが徐々に始まっています。
そこで、このイベントではユーザー企業の経営者を中心に参加者を募ったそうです。会場はスーツで埋め尽くされ、ぼくも、とても緊張したイベントになりました。でもこの層の方々にも十分納得いただける内容だったのではないか、と思っています。もっともっとアジャイル開発が増え、エンジニアの力がビジネスを変える源泉になるよう、ぼくも活動していきます。
スクラムの概要と歴史、日本との関係、日本から出たイノベーションモデル、日本企業でのアジャイル事例、などにご興味があれば、ぜひ、野中先生と私の共著をお読みください!
『アジャイル開発とスクラム~顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント』
平鍋 健児、野中 郁次郎(著)